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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1351号 判決

控訴人 島村唯岸

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 太田雍也

被控訴人 東京都

右代表者知事 美濃部亮吉

右指定代理人東京都事務吏員 津田俊夫

〈ほか一名〉

主文

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は控訴人島村唯岸に対し金六二六、三〇〇円、控訴人大木康平に対し金二九〇、〇〇〇円およびこれらに対する昭和四一年七月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分しその一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

(申立)

控訴人ら 「原判決を取消す。被控訴人は控訴人島村唯岸に対し金八五六、三〇〇円、控訴人大木康平に対し金三六〇、〇〇〇円、およびこれらに対する昭和四一年七月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。

被控訴人 控訴棄却の判決を求める。

(主張および証拠)

当事者双方の主張および証拠関係は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人ら

当審での控訴人島村唯岸、同大木康平各本人尋問の結果を援用する。なお、原判決事実摘示の第三の証拠中「証人倉谷与三郎」とあるを「証人金谷与三郎」と訂正する。

被控訴人

原判決事実摘示の第三の証拠中「爾余の乙号各証」とあるを「爾余の甲号各証」と訂正する。

理由

一、当裁判所は、左記のとおり補足訂正するほか、原判決理由一、(同判決八枚目表一〇行目から一一枚目表九行目まで)記載のとおり認定判断するので、ここに同記載を引用する。

同判決八枚目表一〇行目の「成立に争いのない」の次に「甲第一号証(なお原審での控訴人島村唯岸本人尋問の結果により成立が認められる甲第二、三、四号証をあわせる。)、第一三号証」を加え、

同表一一行目、同裏一行目の「および原告島村唯岸本人尋問の結果」を「、原審および当審での控訴人島村唯岸、原審(第一回)および当審での控訴人大木康平各本人尋問の結果」とあらため、

同裏二行目、三行目の「を総合すれば」の前に「ならびに弁論の全趣旨」を加える。

同判決九枚目裏三行目の「大型トラック、」を「大型トランク」とあらため同裏一一行目の「移し替えることとし」の次に「(それまでに被控訴人より控訴人島村に対し収容舎の明渡を求めたことはない。)」を加え、同判決一〇枚目表五行目の「(一)記載」の次に「物件および」を加え、同五行目、六行目の「のうち1、2、6、8、10、11、18、」を削り、同六行目の「原告」を「控訴人大木」とあらため、「(二)記載」の次に「物件一切(以下、本件物件という。)」を加え、同六行目、七行目の「のうち1、3、5)」を削る。

二、ところで被控訴人は抗弁の項(一)として本件物件を収容舎から本件倉庫に搬出後、控訴人島村と被控訴人との間に、それらを無償で保管する旨の寄託契約が成立したといい、その事由として、(イ)(ロ)(ハ)の事実(原判決六枚目表四行目から同裏九行目まで)を主張するが、≪証拠省略≫に対比して、にわかに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠なく、かえって≪証拠省略≫によると、控訴人島村は昭和三八年一月一六日に至ってはじめて収容舎に収容されていた本件物件が持ち去られていることを知って驚き、その所在を確かめるため区画整理事務所当局者等に再三交渉するも要領を得ず埓があかないまま日を過ごすうち、罹災したもので、その間都職員から進んで連絡を受けたり本件倉庫に案内されたような事実なく、まして本件物件の転置を承諾したような事実もないことが認められる。

三、そして、以上の事実によると、控訴人島村(亡官平は控訴人島村の同居家族の一員として)が、前記のように、収容舎を使用したのは、被控訴人とのいわば使用貸借契約に基づくものと認められ、被控訴人が控訴人島村および亡官平(以下控訴人島村らという。)所有の本件物件を本件倉庫に転置するまで、控訴人島村に対し使用貸借解除の通告をしたことが明確に認め得ない本件においては、控訴人島村は、その間依然として収容舎の使用借受をなし、同舎内に控訴人島村らが本件物件を占有していたものというべく、したがって、被控訴人が本件物件を本件倉庫に無断転置したのは、それが前記認定の事由があるにせよ、すくなくとも過失により控訴人島村らの本件物件の所有権の円満な行使を妨げたもの、ないし、その占有権を侵害したものに当ることは自明というべきである(この点につき、被控訴人は控訴人島村に実質上損害を与えていないというも当らない。)。したがって控訴人島村らにおいて被控訴人に対し本件物件の返還又は返還不能のときはこれに代る物件価額相当の損害の賠償を請求し得るものというべきところ、前記のように本件物件は焼失し返還不能となったものであるから、控訴人島村らにおいて、被控訴人に対し本件物件の価額相当の損害の賠償を求め得ることは当然である。

そして右損害が前記のように本件物件を本件倉庫に保管中隣接する別棟の倉庫からの原因不明の火災により類焼したことに伴い生じたものであること(前記認定事実からすると、右転置行為後の被控訴人の倉庫管理方法が、特に本件倉庫の東側の倉庫の管理について不十分であったことが窺えるが、この点は措く。)によって、右説示の結論を左右し得るものでないことは、前記のように権利侵害の事実が認められる以上、当然のところといえるし、また、右搬出行為と物件焼失による損害との間に相当因果関係がないとする被控訴人の主張の当らないことも、上記説示に徴し自明である。

四、次に被控訴人主張の時効の抗弁について判断するに、まず不法行為による損害賠償請求権の三年の消滅時効の起算点は被害者側が損害および加害者の双方を知った時から進行するのであるが、本件のような場合には本件物件が焼失したときに損害が発生したものというべきである。ところで≪証拠省略≫によれば控訴人島村らは昭和三八年二月一八日損害および加害者の双方を知ったものと認められるから、前記時効の起算日は右同日である。仮に被控訴人主張のように本件物件を本件倉庫に移したときに損害が発生したと解するとしても被控訴人がいうように、同人が控訴人島村(および同人の娘)に対し昭和三七年一二月中頃本件物件を本件倉庫に移した旨を通知した事実はなく、かえって控訴人島村らは昭和三八年一月一六日に至ってはじめて本件物件が収容舎から持ち去られていることを知ったことは、前説示のとおりであり、控訴人らが被控訴人に対しその後三年を経過していない昭和四一年一月一一日付同日到達の書面をもって本件損害賠償請求の催告をなしたことは≪証拠省略≫によって明らかであり、更に控訴人らがその後六箇月内に本訴を提起していることは記録上明らかであるから、本件損害賠償請求権が消滅時効によって消滅するいわれはない。

五、ところで、本件物件の焼失当時の価額がそれぞれ控訴人ら主張のとおりであることは、≪証拠省略≫に徴して認められ、また控訴人らが慰藉料算出の基礎事情として主張するところは≪証拠省略≫に徴して認められ、これに上来認定の本件各般の事情をかれこれあわせ考えると、控訴人島村の受くべき慰藉料は金七〇、〇〇〇円、控訴人大木の先代官平の受くべき慰藉料は金三〇、〇〇〇円と各見積るのが相当であるし、控訴人大木がその主張の経緯によって先代官平の本件損害賠償債権を取得したことは、≪証拠省略≫によって明らかである。

六、そうすると、被控訴人は控訴人島村に対し物件損害として金五五六、三〇〇円慰藉料として金七〇、〇〇〇円計金六二六、三〇〇円、控訴人大木に対し物件損害として金二六〇、〇〇〇円、慰藉料として金三〇、〇〇〇円、計金二九〇、〇〇〇円、およびこれらに対する本件訴状送達後であること記録上明らかな昭和四一年七月一九日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるというべく、控訴人らの本訴請求は、それぞれ、右金員の支払を求める限度で理由ありとして認容し、その余は理由なしとして棄却すべきである。

よって、右と異り、控訴人らの請求をすべて棄却した原判決は失当として取消し、被控訴人より控訴人らに対し右のとおり金員の支払をするよう命ずることとし、民事訴訟法第三八六条第九六条第九二条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 三和田大士 栗山忍)

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